スポーツ選手から、指導者へ。子どもたちの心を伸ばす。井村 俊雄

メンタルサポートを目の当たりにし、
人を思いやるパーソナリティに魅力を感じた。

実は、心理学やメンタルトレーニングについてはほとんど興味がありませんでした。

私自身、棒高跳びの選手でした。スポーツでも特に陸上は個人競技ですから、
試合のときは誰の手助けも得られません。自分ひとりでやるからこその良さもありました。
どのスポーツ選手もそうだと思いますが、競技をやってうまくいかなかったときは
コンプレックスが残ります。自分の存在価値=競技の結果になってしまうのです。
学生時代はうまくいかないことも多く、精神的な浮き沈みもありましたが、
他の人に助けてもらうものではなく、自分で何とかするものだと思っていました。
それで記録を残したという自負もありましたから。

現役を引退し、幅跳びの選手である妻のコーチをするようになってからのことでした。
妻の所属先がアイディアヒューマンサポートサービス(アイディアメンタルトレーニングセンター)に
変わり、合宿にも試合にも来てくださる、試合後のメンタルサポートもしてくださる、
他とは少し違った企業だったのです。
代表者がメンタルトレーナーでもあり、試合後のなにげない日常会話の中で、
選手が抱えている問題や、試合で収穫したことを引き出してくれる。
いわば、気持ちの中をきれいに整理し、次は何をするかを導き出す司会進行役です。

その姿を見て、コーチをする上で、私自身も人を思いやって大切にする
パーソナリティを身につけたいと思い、カウンセリングを学びはじめました。
さらに、今やっている陸上競技を中心とした運動教室イムラ アスリート アカデミーを
つくる決意をしてからは、たかがスポーツですが、子どもたちの人生に
関わることになると思い、ますます真剣に学ぶようになりました。

おとな時間ではなく、子ども時間で。
「待つ」ことができたのは、カウンセリングを学んだから。

小学生の教室では、教える練習もあれば、自分で考えて工夫してやる練習もしています。
私の指導は質問攻めです(笑)。たとえば、撮影した動画を使って、
子どもたちに「この選手の上手なところはどこかな?」と質問します。
なかなか答えが出てこない。答えが出るまで5分ほど待つこともあります。
待っていると、「速く走れている」などの言葉が出てきます。

次は「この選手はもっと上手になりたいから、アドバイスをしてあげて」と言うと、
だまってしまう子もいれば、助けを求めて親御さんのところに逃げようとする子がいたり。
でも、ずっと待つんです。するとボソッと「大きく手をふる」とか言いはじめるんです。
カウンセリングでは、原則として「答えはすべて自分がもっている」と考えます。
私自身カウンセリングをやっていなければ、待てずに「ブブー!時間切れです」と
タイムオーバーにしていたと思います。

実は、おとな時間と子ども時間があるんです。さらに子ども時間は一人ひとり違います。
親御さんは我が子が答えられないと、子どもをせかしたり、ヒントを与えようとします。
そういうときは、周りに気を遣ったり、他の子と比べたりせず、
「その子の時間で一緒に待ちましょう」と伝えています。
大人から考えると、結論を知っているからダメだとわかりますが、子どもたちは知りません。
あえて子どもたちが出した答えを一緒にやってみるのです。まさに木の枝と一緒で、
一人ひとりに選択肢がたくさんあって、ひとつ選んでやってみる。そこで失敗だなと思えば、
次からそこに行かなければいいだけ。その繰り返しが成長につながるのです。


教室では練習内容をノートに書きます。
誰にも見せなくていいので、のびのびと自由に。
壁にぶち当たったり悩んだりしたときに、自分が楽しくがんばってきた
事実が記されているこのノートが大きな助けになります。

家族を含めた毎日の小さなカウンセリングが、
子どもたちのパフォーマンスを引き出す。

皆さんご存じの通り、部活を含め、スポーツをとりまく状況はかんばしくありません。
スポーツ嫌いの親は、子どもにスポーツをさせる機会が少なくなります。
選手に聞くと、「もうしんどい、我が子にはこんな思いをさせたくない」とも。
子どもたちに、上手下手ではなく運動を好きになってもらうには、
親御さんのストレス緩和ケアも含めたトータルでのサポートが必要だと考えました。
一日の中でスポーツするのはたった1〜2時間、家で過ごす時間は10倍以上、
親御さんの精神状態が良くも悪くも子どもたちに影響を与えます

そこで見学や送り迎えに来てくださる親御さんとたくさん話すようにしています。
日常会話の中で、子育ての悩みや子どもについて気になることを話されたら、
子どもの話を聴き、また親御さんの話を聴くなど、小さなカウンセリングを
毎日やっている感じです。また親御さん向けにやっているグループセラピーで、
絵やコラージュに気になる点が見られた場合は個別で話を聴くこともあります。
話を聴くことで、悩みの芽が大きくなってしまう前に摘みとることもできます。

日常の中で親御さんの心のケアをすると、親御さんがストレスから解放された状態になる。
すると、子どもたちもストレスから解放され、最高のパフォーマンスを発揮できる。
すると子どもたちもうれしいし、親御さんもうれしい。そして私もうれしい。
だれにとってもハッピーないいサイクルができます。
今後も、スポーツ指導にカウンセリングの知識や経験を活かし、
これまで以上に、子どもたちにいい環境をつくっていきたいと思います。

最後に、こんなことも聞きました!

〈カウンセラーの資質として大切だと思うことは?〉
甘い考えや軽い考えだと、人の人生に関わることは許されないと思います。
その人の人生に関わるだけの覚悟ややる気があるかどうかだと思います。
〈自分自身のメンタルケアのためにしていることは?〉
普段は寝れば忘れるのですが、2〜3日経ってもモヤモヤしている場合は、
ゲシュタルト療法にある、今思っていることを紙に書き、今ここで、
自分に何かできるかを考え、最後は紙を破り、モヤモヤした感情とさよならする
ということをやっています。
〈話を聴くプロに会ってみたい方へ、ひとこと!〉
話を聞いただけでは何事もわからないので、自分の肌で感じてみてください。
カウンセリングの持つすごさもやさしさも感じ取れると思います。
病気でなくても、健康な状態で活用すると人生が
もっと楽しくなると思います。
〈話を聴くプロをめざす方へ、ひとこと!〉
まずは自分がカウンセリングの授業を受けて楽しいかどうか。
私自身、いい気分だなと感じたことで、この感覚を伝えていきたいと思いました。
楽しいと感じることにより興味が大きくなり、もっともっと深く吸収できますよ。

井村 俊雄

イムラ アスリート アカデミー
国際陸上競技連盟公認レベルⅠコーチ
プロフェッショナル心理カウンセラー 一般

高校時代に棒高跳びで兵庫県3連覇、全国高校総体2連覇を成し遂げる。
世界ユース選手権、世界ジュニア選手権にて入賞。
筑波大学時代には、学生選手権で優勝を果たす。卒業を機に現役生活を終え、就職。
妻・井村久美子のロンドンオリンピックへの挑戦に向け、専属コーチに就任した。
2013年1月イムラ アスリート アカデミーを設立。
スポーツ指導を行うとともに、心理カウンセラーおよび
メンタルトレーナーとして活動中。